
深夜0時頃。
何時間も続く激しい衝撃音。
過去最悪とも言えるそれらの騒音に、いよいよ危険を感じた私たちは
「……もう、警察を呼ぼう。」
そう判断し、人生で初めて『110』の番号を押しました。
▼ついに、110番通報。

……もしもし。あの、事件……ですかね?
普通に生活してたら、110番なんて日頃そう何度もかけるものではありません。
仕事で関わりがある…とかでもない限り、警察の方と話し慣れている人もそう多くはないでしょう。
私たちも緊張で声が少し震えながら、電話口の警察官へ状況を説明しました。

何かを殴ったり、投げたりしているような強い衝撃音が、もう何時間も続いているんです。
それに先ほど、部屋の中の物が吹き飛んで倒れたような、大きな音も聞こえてきて……。

なるほど。ではまず、住所を―――…
警察官は落ち着いた口調で、場所や現在の状況をひとつずつ確認していきます。
――どんな種類の音なのか?
――人の叫び声は聞こえないか?
――ケガ人がいる可能性はありそうか?
質問に答えながら、私たちも改めて「これは普通の生活音ではない」と実感していました。
ひと通りの説明を終えると、警察官は

分かりました。それでは最寄りの警察署から署員を向かわせます。そのままお待ちください。
と言って、そして最後に…

署員が到着しましたら、お宅(=うちの部屋)にもお話を伺いましょうか?
私は、彼と顔を見合わせます。
本当なら、これまで続いてきた騒音の経緯を直接説明したい気持ちもありました。
ですが、それ以上に怖かったのは、通報したのが私たちだと上階住人に気付かれてしまうこと。
もし逆恨みでもされたら──。
どんな人物なのか分からない相手だからこそ、その不安は大きかったのです。

いえ、大丈夫です。通報したのが私たちだと相手に分かってしまうと、何か今後トラブルになるかもしれないので……。
そう伝えると、警察官も事情を理解してくださり、そのまま通話を終えました。
こっちは上階住人と争いたいわけではない。
ただ、静かで平穏な日常を取り戻したいだけなのだ…。
▼警察の到着。
10~15分ほど経った頃でしょうか。
アパートの外に複数人の人が来た気配がしました。
相変わらず上階からは断続的に衝撃音が聞こえていましたが、

……よかった!やっと来てくれた( ;∀;)
と、2人で小さく喜びます。
時刻はもう深夜。
住宅街は静まり返っていたため、外を歩く足音や話し声がいつもよりよく聞こえてきました。
どうやら、警察官は2人以上いるようです。
アパートの周囲を確認した後、2階へ上がっていく様子でした。
いよいよ、上階住人の部屋へ向かったのか…。
私たちは玄関付近で息を潜めながら、その様子をじっと見守っていました。
▼初めて聞いた、上階住人の”声”
ピンポーン。
……
ピンポーン。
何度かチャイムを鳴らす音が聞こえ、
少し間をおいて、「ガチャッ」 と、玄関ドアが開く音が聞こえました。
そして──

……はい。何なんですか、こんな夜遅くに。
初めて聞く、上階住人の声でした。
…アレ?思っていたよりも、若い男性の声だ。
おじいちゃん、という雰囲気ではありません。
ていうか「こんな夜遅くに何なんだ」は、むしろこちらのセリフだぞ(笑)
穏やかな口調で話す、複数人の警察と思しき男性たちの声が続きます。

夜分遅くにすみませ~ん、●●警察署の者です。
この時間にしてはけっこう大きな音が聞こえていましたので、念のため確認に来ました。
今、大丈夫ですか?
なお、この会話は私たちが玄関扉を挟んで外からうっすら聞こえてきた程度。
おそらく一字一句、正確ということはないでしょう。
ゴニョゴニョ…と断片的に聞き取れた単語や会話の流れから、おそらくこのような内容だったのだろうと推察しました。
―…しかし、その中でひとつだけ、はっきり聞こえた言葉がありました。

この音って何ですかね?
例えば壁を叩いたり、何かを投げたりしているわけではないですか?
すると上階住人は、

いや、あの……扉を閉めたりとか、してるだけです。
と答えたのです。
その言葉を聞いた瞬間、私たちはまた顔を見合わせました。
―――え?
それってつまり、音を出している自覚はあるってことかい( ゚Д゚)
もちろん本人の真意は分かりませんが、自分は音を出していないのであれば「うちではありません」と否定するのが自然な気もします。
それなのに、警察からの質問に対して「扉を閉めているだけ」と即答。
その返答を聞いた私たちは、”やはり騒音の主は…2-1だったんだ”と確信せざるを得ませんでした。
そして当然のことながら、警察官が来てからは、あれほど鳴り響いていた騒音もピタリと止んでいます。
さすがに…偶然とは思えません。
▼束の間の静寂、そして翌日の異変
それ以降、その晩は音が鳴ることはありませんでした。
―――さすがに警察が来たことで驚いたのか?
もしかすると、それまで警察を呼ばれたことは1度もなかったのかもしれません。
ちなみに、このとき電話で対応してくださった警察の方からは

危険を感じるような大きな物音が続いている場合は、昼夜を問わず通報していただいて大丈夫ですよ。
という趣旨のお話もいただきました。
ただやはり警察を呼ぶとなると、その時の状況によって判断に迷うケースも多いと思いますので…このあたりについては別記事で詳しくまとめています。
興味のある方は、ぜひ読んでみてください↓
通報の翌日は、驚くほど静かな1日でした。
これまで毎日のように聞こえていた激しい打撃音も、謎のバイブ音も聞こえません。

やっぱり警察が来たことで、少しは改めてくれたのかな?
そんな期待を抱きながら、その夜も眠りにつきました。
……しかし、その期待は意外な形で裏切られることとなるのです。
▼通報に対する”報復”…なのか?
・・・・・・・・・「バゴォンッ!!!!」
深夜2~3時頃だったか。
頭上に稲妻でも落ちたかのような爆音で、私も彼もベッドから飛び起きました。
何が起きたのか理解する間もなく、
「バゴォンッ!!!……ドゴォンッ!!!!」
さらに、2発。
これまで聞いてきた打撃音とは、比較にならないほどの爆音でした。
あまりの衝撃に、建物全体が「ビイィィィンッ…」と響いて震えています。
―――音は、空気や音の振動です。
それらを感じ取る私たちの耳も、音を聞けばある程度は「どこから」「何に向かって」鳴っている音なのかが、分かるものです。
これは、壁ではありません。
明らかに…私たちの真上。
上階住人が”床”──つまり私たちの部屋の天井に向かって、何かを思い切り叩きつけているような音でした。
足なのか、拳なのか、それとも物を投げつけたのか。
方法は分かりません。
ですが、その音が私たちに向けられた敵意のように感じられたことだけは、今でも鮮明に覚えています。
3発だけ鳴ると、またピタリと音は止みました。
部屋には、再び静寂に包まれます。
私たちはしばらく無言で天井を見上げ、お互いの顔を見合わせます。
そして、ほぼ同時に同じことを口にしました。

……今の音、確実に”うち”に向けてやったよね。
警察を呼んだことへの、報復なのか。
通報した直後に感じていた嫌な予感が、現実になってしまったのかもしれません。
しかし、その夜は結局、それ以上音が鳴ることはありませんでした。
私たちはもちろん、そんなことがあった直後にぐっすり眠ることなんてできず、
目が覚めてはまた瞼を閉じ…恐怖でふと目が覚めてはまた目を瞑り……
そうしているうちに、翌日の朝を迎えることになります。
〈次回予告〉第8話は…

再び向けられた矛先?通報の翌日、まさかの事件が———。
「警察呼んだのがウチだってこと、上の人にバレなきゃいいけど。」
「それで万が一、恨まれても困るよね…」
「お巡りさんに”通報元が相手に伝わらないようにしてほしい”って伝えてあるから、大丈夫かな?」
通報直後、そんな不安を口にしていた私たちでしたが…
その予感は皮肉にも、現実になってしまったのかもしれません。
翌日の晩―…深夜に鳴り響いた、3度の”爆音”。
それらは、階下の私たちを震え上がらせるには十分すぎるほどでした。
そしてその”報復”のような現象は、これだけでは終わらない…
その日はさらに、我々にも予想だにしなかった「ある事件」が起きるのです。




