
110番通報の翌晩、丑三つ時に鳴り響いた…あの稲妻のような”衝撃音”。
―― 通報したことに腹を立てて、仕返しのつもりでやったのか?
―― あの『ベランダ窓事件』以降、こちらに対してはパッタリと音が止んでいたのに…
―― また私たちに向けての『ドンッ』が再開するのだろうか?
―― これからは今までよりもっと酷い…より大きな衝撃音に変わるのだろうか?
様々な不安がよぎり、音が止んだ後も寝るに寝つけず。
結局、私たちは十分な睡眠がとれないまま、翌朝を迎えました。
▼嫌な予感
当時の私たちは、仕事の関係から寝るのも起きるのも早く、毎朝5時に起きて5時半頃には家を出る生活を送っていました。
幸い、その日の私は休日。
寝不足で目をこすりながら出勤する彼を玄関先まで見送り、

今日はこのまま2度寝しようかなぁ…
と考えていました。
玄関で靴を履きながら、彼が少し心配そうに言います。

このあと今日1日、何もないといいんだけど……。もし何かあったら、すぐ連絡してね。

うん…いってらっしゃい、そっちも気をつけてね。
と彼を送り出しました。
この時の私たちは、まさかこの直後に”あんなこと”が起きるとは、予想だにしていなかったのです。
▼予想外の災難

その日の夕方。
仕事を終えて帰宅中の彼から、1通のメッセージが届きました。

ごめん。今もう駅ついたけど、いつもより時間かかるわ

おっけ、どしたの?
すると返ってきたのは、思いもよらないひと言でした。

―――チャリやられた。
一瞬、意味が分かりませんでした。

えっ……まさか。

自転車のタイヤ、パンクしてるわ。
彼は普段、始発電車を利用するため、自宅からひとつ隣の駅まで自転車で通勤しています。
話を聞くと、駅前の駐輪場に停めていた自転車の後輪が、帰宅時には完全に空気の抜けた状態になっていたとのことでした。
―――駅前だし、停めている間に誰かのイタズラに遭ったのだろうか。いやそれとも、もしかして…?
私は「気を付けてゆっくり帰っておいで」と返信し、帰宅後に彼から詳しく話を聞くことにしました。
判明した”針のような穴”

いつからパンクしてたの?朝から?
そう聞くと、彼は首を横に振りました。

いや、朝は普通に乗れた。帰りに駐輪場へ行ったら、もう完全にペチャーンって後輪の空気が抜けてた。

空気入れのキャップが緩んでたとかはした?

いや、確認したらキャップはちゃんと締まってたよ。
おそらくパンク……ていうか、どこか穴を開けられたんだと思う。
この自転車は、この部屋に引っ越してから新しく買った、まだ新品ピカピカの自転車。
つまりは購入からまだ1か月程度しか経っていませんでした。
タイヤの消耗によりパンクしたとも、時間が経って空気が抜けたとも考えづらい状況です。
次の休日、私たちはすぐに近くの自転車屋さんへ持ち込み、タイヤを診てもらいました。
すると店員さんから告げられたのは、
後輪タイヤに、針で刺したような細い穴があいているという事実でした。
偶然なのか、それとも…
その日の朝、自宅から駅までは問題なく乗れていた自転車。
しかし夕方、駐輪場へ戻ると片方のタイヤの空気は完全に抜けていました。
この状況だけを見れば、「駅前の駐輪場へ停めている間に誰かがパンクさせた」と考えるのが自然でしょう。
実際、私もその可能性が一番高いと思っています。
ですが、どうしても拭えない不安がありました。
…2日前の夜中、私たちは上階住人の騒音を110番通報しています。
そしてその翌日の深夜には、まるで報復とも思えるような衝撃音。
さらにその翌日に、自転車のパンク。
もちろん証拠はありません。
目撃したわけでもありません。
ですが、あまりにも”タイミングが重なりすぎている”ように感じたのです。
そしてさらに、気になっていたことがもう1つありました。
私たちの自転車は、いつも”隣”同士だった

ここからの説明は少し分かりづらいので、イメージ図をご覧ください。
実はこの物件には、専用の駐輪場がありません。
そのため、1階の住人は自室の玄関前に、2階の住人は各自の玄関前または1階階段付近にそれぞれ自転車を停めています。
私たちは1階角部屋だったため、自転車はいつも玄関前へ停めていました。
そして部屋のすぐ横には、2階へ続く階段があります。
そのため上階住人も、階段のすぐ横──しかも私たちの自転車の隣に、自転車を停めていたのです。
今まで「あ、上の人、出かけたな」「今、帰ってきたかも」と何となく分かっていたのは、この自転車の配置だからこそでもあります。
しかし逆に言えば、向こうから見ても「隣の自転車は、真下の部屋(1階角部屋)の住人のものだ」と
簡単に分かる環境でもありました。
集合住宅の大きな駐輪場なら、自転車の持ち主を特定するのは簡単ではありませんが、自室の玄関前へ停めるタイプの物件Aでは……一目瞭然です。
そこで、一昨日のあの”警察騒動”。
通報したことで、上階住人の矛先が私たちに向けられたのだとしたら――。
仕返しの手段は、騒音以外へ発展する可能性も、完全には否定できません。
そして上階住人の自転車は、いつも彼の自転車の真横。
その気になれば、イタズラをすること自体は難しい環境ではありませんでした。
▼考えすぎ?それとも…
もちろん、駅前の駐輪場でイタズラされた可能性の方が、状況的には圧倒的に高いと思っています。
ただ、私たちは2日前に110番通報をしています。
もし相手が「警察なんか呼びやがって」と逆恨みをしていたとしたら……。
玄関前に停めてある彼(旦那)の自転車へ何かすることも、不可能ではないのです。
朝の時点でタイヤのパンクに気が付かなかったのは、それが針か何かで開けられている小さな穴だったからかもしれません。
この場合、時間をかけてゆっくり空気が抜けるので、朝、駅までのちょっとした距離を漕ぐ段階ではまだ完全に空気が抜けていなかった為に彼(旦那)は気が付かなかった…という可能性も、否定できないのです。
とはいえ、これはあくまで私たちの推測のひとつです。
証拠もなければ、目撃したわけでもありません。
たまたまタイミングが重なっただけだったのかもしれない。
そう自分たちに言い聞かせながらも、やはり不安は消えませんでした。
そこで私たちは、
駅前でイタズラされた可能性が高いが、自宅でやられた可能性も完全には否定できない以上、防犯対策だけはしておこう
…という結論に至ります。
大家さんへ相談して許可をもらい、すぐにAmazonでワイヤレスタイプのカメラを購入。
数日後には玄関前に防犯カメラを設置しました。
―――以降、私たちの自転車がイタズラされるようなことはありませんでした。
そして。
意外にも、そこから約1か月。
私たちには、このアパートで過ごした中で最も“平穏な日常”が訪れることになるのです。
〈次回予告〉第9話は…

通報への”仕返し”?拭えない疑惑の中、その後どうなったか…
また始まるのか?上からの”音返し”…。
いや、それ以上に酷い嫌がらせへ発展するのかもしれない――
そんな不安を抱えていた私たちでしたが、その後1か月ほどは驚くほど平和な日々が続きました。
相変わらず突然の打撃音こそあるものの、その頻度も大きさも以前とは比べものにならないほど少なくなり、私たちへの“音返し“もありません。
自転車へのイタズラも、あれ以来1度も起きませんでした。
正直、拍子抜けでした。
「このまま終わってくれるのかもしれない。」
そう思い始めた、私たち。
ただそんな中、ひとつだけ……どうしても気になる“奇妙な出来事”があったのです。


